適正てきせいとは

       rev 2019.1.28

団員にとって一番心配なのは、自分が「パイロットになるための適正」が「あるのかないのか」だと思います。諸説色々あるが、ここでは簡潔に、昔ANA機長だった人生を振返って「適性とは?」を述べてみよう。
まず、適性を語る前に現在「航空機はどのように運航されているのか」を簡単に知る必要がある。飛行機が飛ぶには運航乗務員(ここでは機長、副操縦士、CA)や運航を支援する整備士、運航管理者、航空交通管制官、空港警備員、清掃・食事・燃料などに携わる人達(グランドハンドリングスタッフ)が働いていることを知らなければならない。まず機長は本日の担当便(例 : ANA006便)に乗務するために、1時間半前(5分前精神を忘れずに)に必ず所定の場所 (運航管理室) に出頭しゅつとうする。
飛行計画 (フライトプラン : 便名、飛行機の機種、出発時刻、飛行時間、予定ルート、予定高度、代替飛行場、搭載燃料量、搭載機器の種類、機長名などを表記した書類) を航空局に提出し、目的地飛行場および代替飛行場の気象状況(気象学の勉強が必要)、使用する飛行機の整備状況やNOTAMと云われる航空情報(すべて英文)を担当者運航管理者ディスパッチャー から説明を受ける。悪天候が予想される時などは、会社が示す燃料プランで不安があれば多めに搭載する。(重量が重くなる) 定時運航を目指すため出発1時間前になれば機体(スポット)に向かう。副操縦士と共に機体のコンピューターに運航情報を入力し(コンピューターの理解が必要)、両者で確認する。運航情報とは必要な燃料量やサンフランシスコまでのルートや計画高度、予想風など。乗客の搭乗が終了し、管制塔よりの出発承認(クリアランス⦅サンフランシスコまでのルート、最初の指定高度、SQ符号、出発時刻など)という)を受ければPushbackしながらエンジンをかける。
管制官の指示に従い(航空法の理解が必要)指定された滑走路へ向かい離陸する。離陸後、出発ルートに沿って積乱雲を避けながら指定高度まで上昇を続ける。離陸後速やかに自動操縦をonとし、外部を監視しながら揺れが継続するかどうかを判断する。巡航高度に入るとルートの確認、航路上の雲を監視し、客席のサービスの進捗しんちょく把握はあくし、エンジン、機体、コンピーターなど、全てに異常のないことを常に確認している。洋上飛行のための通信 (管制官や会社無線などとの衛星通信) を設定する。洋上を進むと日本のレーダー覆域の範囲から脱出し、無線機とGPSおよびPCだけを頼りとする洋上飛行となる。
途中、何回か交代乗員と操縦を代わり、朝日が出てくるころになると今度はサンフランシスコ空港へ向けての着陸準備。羽田で確認したサンフランシスコ空港の情報(主に工事区間、重要な電波の停波、工事による通行止めなど)を再確認し、最新の気象情報、進入方式 (ILSなど)、使用滑走路、スポット、地上誘導路、混雑状況その他の注意事項を再度頭に入れる。
高度を下ろしながら、地上誘導のレーダーの指示に従い、次々と指示される高度や進路を間違えないように、そして他機と衝突しないように外部を監視しながら最終進入地点まで飛行する。空は朝日の中で晴天だが、下の景色は霧のため見えない。下層の霧に突っ込むといよいよ着陸はもう直ぐ。何も見えない中でシミュレーター訓練と同じように副操縦士と高度・速度などを掛け合い、読み合い、確認し合って「ぼやぁ」と見えてきた滑走路に着陸する。ほっとしながら最後の仕事であるスポットに向かって自走する。・・・・本日の飛行時間は8時間03分でした。

さてこれからが本題

このように、ごく簡単に国際線運航の概要を説明したが、ここで団員諸君には「適性として何が必要なのか」少しは分かったかな?  では次に進もう。
パイロットに求められる資質ししつ
1. 技能能力 : 機械の働き、システムなどを理解して、円滑にかつ確実に飛行機を操縦できる能力

2. 知識能力 : 日本国や外国の法律の理解 (国によって緊急時の操作が違うこともある)、会社の規定類の理解、飛行機の構造や航空力学に関する知識、コンピーターに対する理解および使用法、気象学、地理、社会学、歴史など (一般的にパイロットには専門的な知識は必要としない。言い換えれば浅く広い知識を必要とし、その中でも知らない国に行ったり、戦争国の上空を飛行したり、GPS等の電波停止やハイジャック対策などのためにその理解は必要とされている)・・・ですから、飛行中の機長にかかるプレッシャーは相当なものになる。つまり、この道を目指すのであれば、まんべんなく勉強する必要があり、今の学校での授業に精を出すことが必要。特に英語能力は、訓練中からそしてパイロットになってからも日常的に必要で、学校教育以上の資質が求められている。
3. 性格能力 : 一般的に「性格」と云われるもので、「適性」と「適応性」の二つに分類できると考えられている。つまりパイロットとしての「適性」の在る無しは、この両者を合わせたものと云えそうです。
適性 : 潜在的せんざいてきな能力のことであり、例えば操縦技術や知識を吸収する能力、上手下手、知能も絡んできて総合的に「適性」のあるなしと評価につながる。
適応性 : 適応性とは、適性があっても仕事中に問題を起こすようなもので (例えば居眠り、わき見など)、やはり総合的に「適応性」があるなしと評価につながる。
1. 身体的・精神的適性 : 航空身体検査基準にすべて合致する事
2. 会社人であることの意識 (ひと昔は、技術のみにおぼれていたパイロットは、会社人としての意識が薄かった)
不適応性の発掘
パイロットとしての適応性を見出すことは大変難しく、運航環境や知識の度合い、また人間関係も複雑に絡んでくるので「適性が在る」は正確に定義することはできない。しかし、「適性がない」ということは比較的簡単に整理することができ、下記のような性格の人はパイロットとしての適応性がないと云える。また適応性を所持している者を「適格者」と定義づけている。(しかし適性の在る無しも範囲があるので、下記に該当したからと云って諦めるのは早い)
A 自分を客観視できない人 : 自分の良いところも悪いところも冷静に見られない人
B 情緒が安定しない人 : 些細なことにカーッとなったり、くよくよしたりする人
C 非常に緊張しやすい人
D すぐに不安になりやすい人
E 他人との協調性がない人
F 自己顕示(けんじ)欲(よく)の強い人
能力があってもちょっと余計なことをしたり、うまくやってやろうという気持ちが強い人
G 被暗示性の強い人 : 自分以外の人の言動につられて暗示にかかるような人
H 法律や規則を遵守できない人
J 行動力・判断力のない人
積極的な行動力も必要な時があり、また即座に判断しなければならない場合が多いので熟考じゅくこう型は向いてない

不適格

パイロットはマルチタスク型の人がいいとされているが、人間の情報処理系は「シングルチャンネル」なので「一度に一つ」の行動が原則。つまり選んだチャンネルしか見られないテレビのようなものなので、二つの情報を一度に処理するには無理があり、脇見運転や思い込みなどの不注意に充分注意しなければならない。つまり「シングルチャンネル」であるので、常に確認を繰り返すことによってマルチタスク型に近づくのでは・・・・。
最後に
人間は完璧かんぺきな性格を所持して生まれてきた人は皆無である。成長過程せいちょうかていでの環境やよき理解者 (この場合、両親や兄弟、学友など) に囲まれ、周りの人からの支援があってこそ大人になり、豊かな感情の育成と共に成長していくものと信じられている。一般的に性格を変えるためには「まず行動を変えることから始め、その新しい行動をしばらくの間維持することができれば、やがて身につく」と云われている。セラピストの手助けがあれば数カ月くらいで持続できる変化を起こすこともできるし、自力でやる場合は時間がかかるが、性格的な特徴を改善 (決して今の性格が悪いわけではない) していくこともできる。

性格改善せいかくかんぜんに対する高い期待を持たず、結果が見えるまで辛抱することではあり、「意識的な行動が第2の天性になるには時間がかかる」との認識が大切だと思う。また反面「他人の反応を心配しすぎないこと」、無理に「他人に気に入られるように変わろうとしないこと」も大切な要素だ。つまり今持っている素晴らしい天性を変える必要はないのだ。
最後に努力してもパイロットの適性に満たないと感じたらプロのパイロットになることはあきらめ、たくさんお金をかせで自分で空を楽しむ「自家用パイロット」になることです。会社の訓練課程でパイロットをエリミネート (排除) され、大きな挫折感ざせつかんで人生を否定しようとした人も、その後気持ちを入れ替え、前向きに勉学にはげんだ結果、素晴らしい社会人や人格者じんかくしゃになった人もたくさんいます。ぜひ自分の人生を大切に、もって生まれた天性てんせいを大切に育てよう。     (団長)